かつて井戸端会議ということばもあったように、水は地域コミュニティに重要な位置を占め、人びとの暮らしのうるおいのシンボルとされてきた。
宇野地区の東端に、小高い山の崖下から流れ落ちる湧水の集まる池がある。「宇野地蔵ダキ」の名のとおり、豪快に流れ落ちる滝ではないけれども、ゆるい落差があり、つねにゆったりと動いている。
池の畔には巨岩と地蔵堂が祀られており、静かな清らかさが辺りを包む。水の質の確かさが高く評価され、2008(平成20)年に「平成の名水百選」に指定された。いわば「地域の誇りの泉」ゆえに、慈しみの心で大切に守られている。
戦前からつづく保存会の現在の会長、河原孝徳さんは古希を過ぎているが、高齢化の進むなかで「まだ若手です」
「地区に上水道が完備される昭和40年代半ばまでは、この水が生活用水の中心でした。銘酒造りにも活用されてきました」
奥さまの福恵さんとともに、湧水とその周辺をほぼ毎日念入りに清掃し、季節の花木を絶やさない。
妻からの夫評はずばり、「仕事がていねいなのはいつも感心しています」
名水百選をきっかけに、「名水と環境を守る会」も発足。夏の一日、名水まつりが催され、蝉の声のなか、あたたかく、のどかに親睦の時が流れる。