この写真を撮影した翌日が、山本孝志さん(写真・右)と朋枝さん(写真・左)の結婚30年記念日だった。いわゆる真珠婚。どうりで大人の輝きをさりげなく匂わせる夫婦である。
孝志さんの父は、東郷湖の定期連絡船を経営する船長だった。1950(昭和25)年に開業、20年間がんばっていたが、世はすでに自動車社会、見切りをつけて陸に上がり、土産物店とホテルを始めた。
その父が他界し、跡を継ぐことになった長男の孝志さんは、大学では法律を専攻し、今とは別の仕事を目指していた若者ゆえ、土産物店や2階のビジネスホテルの仕事などまるでわからない。母の淑子さん(写真・中央)に教わりながら、まさに暗中模索のスタートだった。
そして、よき伴侶を得る。朋枝さんは看護師・保健師としてのキャリアを積んでいた人だ。相手の心に寄り添う仕事だったから、「客商売」にはまさに適材。強力なチームメイトである。繁忙期には親戚の人の手を借りることもあるが、基本的には夫婦と母の3人で店もホテルも切り盛りする。1日の大半をいっしょに仕事して過ごしても、息の合ったチームに綻びが生じることはない。
夫婦の間の長男は東京で就職しており、長女は京都の大学で学んでいる。それぞれの人生を切り拓くのももちろんいいけれど、きれいな水景色があり、季節の実りに恵まれる里があり、という穏やかなこの町に帰ってくるとなれば、それもまたいい。